Resonate 対談編
AI × UX × ウェブ
異なる専門から考える、AI時代の仕事のつくり方
AI、UX、ウェブ。それぞれの現場から
INTRODUCTION
コワーキングスペースの奥にある、半個室のような小さな打ち合わせスペース。木目の大きなテーブルを囲んで四人がゆるく座る。観葉植物が揺れ、照明は柔らかい。コーヒーの香りが漂う、ほどよくリラックスした空気だ。
井上 「じゃあ、そろそろ始めましょうか。今日は皆さん、お忙しい中ありがとうございます。こういう、ステージじゃなく“対面での座談会”って、意外と久しぶりですよね」
長谷川 「ほんとに。なんか落ち着きますね、この感じ」
長岡 「ステージよりこっちのほうが話しやすいかもしれません(笑)」
山村 「私もリラックスして話せそうです。よろしくお願いします」
ふっと場があたたまり、軽い雑談が落ち着いたところで、井上が少し前のめりに姿勢を正す。
井上 「改めて。今日は“AI × UX × ウェブ制作”について、現場で実際に向き合っている皆さんに集まっていただきました。AIがここ数年で急激に伸びて、私たちの仕事は良くも悪くも、大きく変わり始めています。でも──その変化にどう向き合うかは、まだ手探りの部分が多いんですよね」
山村 「本当に。技術側から見ていても、そう感じます」
井上 「この座談会は、特に小規模なウェブ制作者・個人事業主・経営者の方々に向けて、“私たちがどう働き、どう未来を作っていくか”を一緒に考える時間にしたいと思っています。ウェブ制作は作業ではなく、人と人、仕事と未来をつないでいく“流れ”をつくる仕事です。では、この“流れ”をどう作り、どう止めずに進めるのか。AIとUXとウェブの三つの視点から、じっくり語り合っていきましょう」
それぞれがノートを開き、座談会の本編が静かに始まった。
WordPress現場の「AIあるある」
長岡祐樹
テーブルの上のノートPCの横で、長岡が軽く姿勢を正す。
井上 「まず最初は、現場での“AI × WordPress”の話からいきたいんですが……長岡さん、最近ほんとに相談増えてません?」
長岡 「増えてますねぇ……めちゃくちゃ増えてます(笑)。特に“AIに聞いてみたんだけど、うまくいかなくて”っていうパターン」
長谷川 「あ〜、なんか想像できますね、その流れ(笑)」
長岡 「でしょう? 一番多いのが“サイドバーを消したいんですけど”っていう相談で。AIに聞いたら、“CSSを上書きしてください”とか“functions.phpにこの一行を足してください”とか返ってくる。で、やってみると一瞬は直るんです。でも次の日に“別のページが崩れた”“更新したら戻った”って連絡が来る」
井上 「それ、現場の“あるある”すぎますよね」
山村 「AIは正しいことを言ってるんですよね。ただ……」
長岡 「そう。問題はそこなんですよ。AIは“正しい”けど、“現場の文脈”が抜けてるんです」
たとえば、AIに伝わっていないのは、こんな前提だ。
どのテーマを使っているのか
固定ページなのか、投稿なのか
管理画面に設定項目があるのか
子テーマの構造はどうなっているのか
長岡 「そういった“前提”を質問者が伝えていないんです」
長谷川 「つまり“情報不足プロンプト問題”ですね」
長岡 「まさにそれ。結局、僕がやったのは“管理画面のチェックを一つ外すだけ”という簡単な修正でした。AIが間違ってるわけじゃなくて、“質問の方が”まちがってる」
井上 「AIの言うことは正しいのに、現場では正解にならない……と」
長岡 「そうです。AIは“構造を知らないまま最短ルートを出す”から、近道に見えて遠回りになることも多い。でも逆に、こちらが環境や構造をちゃんと理解していれば、AIはすごく“頼れる相棒”になるんです」
山村 「それ、すごくAI的に本質ですね。前提が正しければ、AIの出す答えも安定するので」
長岡 「AIは考える速さはめちゃくちゃ上げてくれる。でも“判断の質”は、こっちの理解力に依存する。だから僕は、“AIに聞く前にWordPressを知ろう”って言ってるんですよ」
井上 「現場の本音が出ましたね。まさに“AIは知識の代わりにはならない”という話だと思います」
長岡の言葉を境に、話題は「AIをどう使うか」から、「人はAIとどう向き合うか」へ少しずつ深まっていく。
AIを「翻訳」しながら使う
長谷川遼
長岡の話が一段落すると、自然に視線が長谷川へ向く。手元のメモを軽く閉じ、笑顔で話し始めた。
井上 「では次は、“AIフロント最前線”とも言うべき長谷川さんに。現場でAIを導入して見えてきたリアルな話を聞ければと思います」
長谷川 「はい、よろしくお願いします。まず最初にひとつ聞きたいんですけど……皆さん、ChatGPTとかClaudeとか、AIに課金してる人どのくらいいます?」
周囲で小さく手が挙がる。顔を見合わせて、思わず笑いもこぼれた。
長谷川 「ですよね〜。少ない(笑)。でも今日は、まさにそういう方向けの話になると思います」
長岡 「僕も最初は無料で様子見してた派です(笑)」
プロンプトの「書き方」ではうまくいかない理由
長谷川 「最近よく聞くじゃないですか。“プロンプトの書き方を学びました!” “AIを仕事に取り入れてみました!”って。でも現場で聞こえてくる声の多くは、“使ってみたけど、なんか違うんですよね……”なんです」
山村 「その“なんか違う”がすごくよくわかります(笑)」
長谷川 「そう、“使い方”の問題じゃないんです。根本は、AIに渡す情報より前の、自分の目的の言語化ができてない。AIに“企画書作って”と言っても、AIはあなたの意図を知らないんです」
まず「自分の中のモヤモヤ」を翻訳する
長谷川 「人って、ゼロから考えるのが苦手なんですよ。だから僕はAIに、“こういう状況の人が使いそうな方法を10個出して”ってまずリストを出してもらって、その中から“これが近い”と感じるものを選ぶんです。“考える”んじゃなくて“選ぶ”。この瞬間に、自分の中にある価値観や方向性が浮かび上がるんです」
井上 「なるほど……“選ぶ”ことで自分が見えてくるんですね」
長谷川 「そうなんです。AIは答えを出す相手じゃなくて、選択肢を並べてくれる相手。これを理解すると、AIとの距離が一気に縮まります」
経営者は「統計の外側」で決断する人
長谷川が少し姿勢を正し、言葉を選ぶように語る。
長谷川 「もう一つ、これは経営者・フリーランスの方によく言うんですが……AIって統計的に正しい答えを返すんですね。でもその“平均的な正解”が正しいなら、皆さんはそもそも経営者になってないはずなんです」
山村 「確かに、統計どおりには動かないですもんね」
長谷川 「そう。経営者って、“統計の外を選ぶ人”なんですよ。だからAIの正しさと、自分の感覚のズレが生まれる。このズレをつなぐ作業こそ、僕が言う“翻訳”なんです。AIを使う前に、“自分は本当は何をしたいのか”“どれが自分らしいのか”を翻訳する。これができる人は、AIと“共鳴”する使い方ができます」
井上 「“AIの正しさ”と“人のらしさ”。その間を翻訳するって、今日のテーマにもすごく合いますね」
長谷川 「はい。AIは人の敵じゃなくて、思考の相棒なんですよ」
AIの中で「実際に起きていること」
山村沙南
長谷川の話が終わると、自然と視線が山村へ。穏やかな笑みを浮かべ、手元のノートをそっと閉じた。
AIは「賢い新人」だと思って付き合う
山村 「では私からは、“AIの中で何が起きているのか”という話を、できるだけ柔らかく説明してみますね」
山村 「まず知っておいてほしいのは、AIはいくら賢くても、あなたの仕事の背景をまったく知らないということです」
あなたがどんなクライアントを持っているのか
プロジェクトがどんな状況なのか
制約が何なのか
山村 「何ひとつ知らない。だから私は、人に説明するとき必ずこう言うんです。“AIは、めちゃくちゃ頭のいい新人だと思って扱うとちょうどいいですよ”」
長谷川 「ああ〜、それ、めちゃくちゃイメージ湧きますね(笑)」
長岡 「わかるわかる(笑)」
山村 「ですよね(笑)。新人さんって“知らないことは知らない”じゃないですか。でも、教えてあげればすぐに吸収してくれる。AIもあれと同じなんです。だからAIに対しては、“知らない前提で丁寧に伝える”ことがとても大事なんです」
「AIが学習した」は、本当の学習とは違う
ここから山村は、少し技術の側へ踏み込んで説明する。
山村 「よく“AIが学習しました”とか“覚えてます”みたいな表現を目にすると思うんですけど……技術的にはあれ、学習じゃないんです」
井上 「え、そうなんですか?」
山村 「本当の学習というのは、AIの本体、つまり“モデルの重み”を更新することを言います。これは膨大な計算資源が必要で、通常のチャット環境では行われていません。私たちが“学習したように見えてる”のは、過去の文脈を検索し、それらを重ね合わせ、もっともらしい推論をしている、というだけなんです」
長谷川 「それ、知ってる人少ないですよね……」
長く話すほど、AIは「疲れてしまう」
山村 「もう一つ覚えておいてほしいことがあります。AIには、“コンテキスト長”という、覚えておける文章量の上限があります。OpenAIでも、Anthropicでも、Googleでも、みんなこぞって“長いコンテキストも読めますよ!”って言ってますけど……実際には、文章量の2乗で計算コストが増えていくので、長くなるほどAIは無理をするんです。だから、長く話せば話すほど、AIの精度は落ちていく」
長岡 「“話しすぎると疲れちゃう新人”って感じですね(笑)」
山村 「まさにそれです(笑)」
AIにメモをとらせ、会話を区切る
山村 「なので、性能を最大限に保つコツは、スレッドを適度に分けること、要点を要約して次に受け渡すことなんです。“ここまでの要点を3行でまとめて”ってお願いして、その要約を次の会話に貼ってあげるだけで、AIはものすごく安定します」
長谷川 「情報の整理をAIにさせるわけですね」
山村 「そう。これは“新人のメモ”と同じなんですよ」
メモを取って
こちらが確認して
間違っていたら直してあげる
山村 「AIとの“信頼関係”って、この繰り返しでできていきます」
井上 「AIを育てる感じですね。すごくイメージが明確です」
山村 「はい。AIは人のように“察する”ことはできません。でも、ちゃんと伝えれば必ず返してくれる存在なんです。だからAIと向き合うときは、どう伝えるかを大事にしてほしい。それが今日一番伝えたかったことです」
場に、少し安心した空気が流れる。
UXが生む「意味」とフィロソフィ
井上龍登志
山村の説明が終わると、テーブルの空気がふっと柔らかくなる。井上は手元のペンをひと回しし、ゆっくりと話し始めた。
UXとは「体験を動かすための設計思想」
井上 「じゃあ最後に、僕から“UX”の話をしたいと思います。と言っても、偉そうな話ではなくて……みんなと同じ制作者として、すごく日常的な話です」
井上 「UXって、どうしても“UIの延長”や“デザインの話”に聞こえがちですよね。“画面が綺麗になる”“ユーザーが迷わない”みたいな。でも本質はそこじゃない。UXとは、人がサービスに触れた瞬間に何を感じ、どう動くか、その“体験の流れ”を設計する考え方なんです。“いいな”と思うだけではなく、“うれしい”“感動した”という心の動きまで含む。だからUXは、論理の正しさより、伝わり方と感じ方を扱う領域です」
AIが作る「正しい文章」と、心に届く文章は違う
長谷川 「AI使ってると、そこすごい感じます。文章は綺麗でも“誰のため?”が抜けてること多い」
井上 「そうそう。それがまさに“UXの仕事の出番”なんですよ。たとえばAIが作った文章って、“間違ってはいないし、読みやすい”ですよね。でもたまに、“これって誰に向けて書いてるの?”ってところがぼやけることがある。そこを整えて、人の気持ちがスムーズに流れるようにするのがUXデザインなんです」
長岡 「それ、めっちゃわかりますね。技術的には正しいけど、読み手の温度感が無くなるっていうか」
井上は軽く笑ってうなずく。
UXの芯には「フィロソフィ」がある
井上 「そしてUXの深いところの話をすると──そこには必ず、“フィロソフィ”があります」
山村 「思想、ですね」
井上 「そう。UXにおいて“何を大事にするか”“どんな価値を届けたいか”という、考え方そのものが“軸”になります。世の中には、形の上ではUXをやっているようで、その裏に“意味”が無いものもたくさんあります。思想がないと、どれだけ整っていても、人の心には届かない」
静かに、しかし強い言葉で語る。
フューリエイトのUXは「流れを止めないための設計」
井上 「フューリエイトでやっているUXの本質は、“仕組み化”ではあるけど、目的はそこじゃないんです。仕組みはあくまで手段。本当に作りたいのは“流れ”です」
制作者が迷わない流れ
クライアントが考えやすい流れ
人の心が動き、サービスが前へ進む流れ
井上 「こういう流れが止まらないように、UXのテンプレートやヒアリングシートを設計しているんです」
長谷川 「それ、すごく腑に落ちますね……“仕組みそのものが目的じゃない”っていうのが」
井上 「はい。AIが“速さ”を生み、UXが“意味”を与え、ウェブ実装がそれを“社会に流す”。この三つが共鳴した時に、初めて仕事が止まらず進む。それが僕らが大事にしているUXの考え方です」
言葉というより、その「思想」に触れたような静けさが、テーブルに残った。
「共鳴」とは何か
CLOSING
場の空気が一度落ち着き、四人の間に「言い切った後の静けさ」が流れる。井上が静かに息を吸い、まとめに入る。
AI・UX・ウェブが交わると「流れ」が生まれる
井上 「じゃあ最後に、今日の座談会を通して感じたことをまとめますね。AIが生むのは“速さ”。UXが生むのは“意味”。ウェブが動かすのは“人の流れ”。この三つがバラバラだと、どうしても途中で止まってしまう。でも、今日の話のように三つが“響き合う”と──仕事が止まらず、流れ続ける仕組みになるんです」
長岡 「それ、ほんと現場でも感じますね……」
視点が違う者どうしがつながる「共鳴」
井上 「今日集まった四人は、実は全員、違う現場・違う立場なんですよね」
WordPress実装の現場(長岡)
AI導入の最前線(長谷川)
AI開発の内部(山村)
UXと仕組み設計(井上)
井上 「一見バラバラなんだけど、この“違う視点どうしがつながる瞬間”に、僕は共鳴が生まれると思っています。共鳴とは、異なる視点が響き合い、一つの流れをつくること。それが今日、強く感じられた瞬間でした」
長谷川 「今日は、ほんとそれを感じましたね……」
仕組みは目的ではなく、「流れを守る手段」
井上が少し姿勢を前に倒し、言葉を丁寧に置く。
井上 「最後に、これはフューリエイトとしてすごく大事にしていることなんですが……仕組みは目的ではありません。仕組みは“流れを守るための手段”なんです。AIが速さを与え、UXが意味を与え、ウェブがそれを社会へと流す。この“流れ”が止まらず進むように、僕らはUXを設計し、仕組み化を進めています」
山村 「AIも人も、流れの中で役割がある……そういう感じですね」
井上 「はい。だから、AIしかできないこと、人しかできないこと、UXが整えるべきこと。それぞれが役割を持ちつつ、一つの流れとして“共鳴”する状態こそ、これからのウェブ制作の在り方だと思っています」
締めくくり
進行役としてではなく、仲間としての表情で、井上が最後の言葉を置く。
井上 「ということで、今日は皆さんのリアルな話を聞けて、僕自身すごく勇気をもらえました。ありがとうございました」
四人が自然と笑顔になる。ゆっくりと椅子を引く音が響き、コワーキングの午後の光がテーブルを照らしていた。
English
https://furieit.com/event-report-ai-ux-web-en/
— FURIEIT JOURNAL —
Credits
Event Supervisor
山田成喜|山田成喜弁理士事務所 代表弁理士
Participants
長岡祐樹|ワードプレス110 代表
長谷川遼|株式会社エキセントリック 代表取締役
山村沙南|Synome株式会社 代表取締役
井上龍登志|株式会社フューリエイト 代表取締役
| Editor’s Note 本稿は、2025年に開催したイベントで交わされた議論をもとに、後日、対談形式の記事として編集したものです。掲載内容は登場者の皆さまにご確認・ご了承いただいています。 |
